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<知的障害者との出会い>

日本理化学工業。

この社名を耳にされた方は多いと思う。
最近、カンブリア宮殿などテレビや雑誌等で、
紹介されている有名な会社だ。

何が有名かと言えば、
雇用している社員の約7割が
知的障害者だということ。
そして、その半数が、重度の知的障害者認定を
うけている人たちだ。

もう50年も、こうした雇用を貫いている。

なぜ、知的障害者の方を積極的に雇用し始めたのか。

それは、現在の会長で、二代目経営者である
大山泰弘さんが、入社3年目の時の出来事に始まる。

養護学校の先生がやってきて、
知的障害者の学生を雇って欲しいとおっしゃった。
大山さんは丁重にお断りしたが、
先生は、何度も何度も日参され、
最後には、数日間の研修でもいいので、
受け入れて欲しいと懇願された。

「この子たちは、卒業して施設に入ってしまうと、
 一生働く経験ができないのです」

その先生の言葉に絆されたのだった。

研修が始まると、障害者の学生たちは、
終業のベルにも気がつかないほど集中して仕事に取り組んだ。
その姿を見た社員たちから、
「我々が面倒をみるから、雇ってあげてはどうか」
という声が上がった。

大山さんは、そのとき、採用を決断した。

それと同時に、彼らを雇うことが、
自分らしさなのかもしれないと思った。

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<自分らしさを求めて>

実は、大山さんは、子どもの頃から成績優秀で、
高校は日比谷高校。大学は当然、東京大学と思っていた。
しかし、受験に失敗。
第二志望の中央大学法学部への進学となった。

大学でも勉学に励み、先生からは、
大学に残って研究をするようにいわれた。
けれども、家業を継がなくてはいけない現実があった。

大学進学に失敗したが、
進むことになった大学で勉強し、
名誉ある道を提示された。
しかし、
チョーク屋の跡継ぎとしての道を選ばなくてはいけない。
自分らしさをちっとも実現することができないまま
人生を終えて行くことになるのだろうか。

自分の人生がとても寂しいものに感じたという大山社長。

けれども、兄弟を食べさせていく責任を負う長男として、
家業を継がなくてはいけない。
辛い思いを振り切り、腹を固めて会社を継いだ。

それでも、「自分らしさ」という思いは、
頭から離れることはなかった。

そして出会ったのが、知的障害者の学生たちだった。

実は、
チョーク製造販売は、
学校へ納める商品作りで、
比較的売り上げが安定していたため、
こうしたチャレンジもしやすかったのだ。

<工夫の連続>

しかし、いざ採用してみると、簡単ではなかった。

一度説明してもなかなかわかってもらえない。
文字も読めない。時計も読めない。数字も読めない。
何度も何度も説明し、わかってもらうために工夫を繰り返した。

材料の区別ができるように、容器のふたの色を変えた
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材料の重さを測る際にも、
ふたの色と同じ色のおもりを天秤にのせて測る
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時計が読めないときは、砂時計で材料を練る時間を計る。
砂が全部落ちたら、スイッチを切る。
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チョークの太さもノギスではなく、
この箱で簡単にチェックできるようにした
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「彼らができないのは、彼らのせいじゃないんです。
 教える方の工夫が足りないからです」

大山さんは、繰り返しそうおっしゃる。

なぜ、そうおっしゃるか。
それは、今、チョーク工場で働く彼らの姿を見ると納得できる。

小さな工場で、黙々と働く彼らは、
ある意味天才的だ。

単純かつ大量の仕事を超人的な集中力でこなす彼らには、
ほとんどミスというものがない。
作業中に余計なことを考えることがないからだ。

しっかりと仕事を覚えると、
健常者といわれる人間よりも質の高い仕事をする。

練り上がったチョークが絞り出される
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絞り出されたチョークを一定の長さにして並べる
一日の作業量は、チョーク99,000本。
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チョークの長さに裁断。
自動式は事故の元なので、手動式に改造した。
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<職場は、成長の場>

乾燥したチョークの割れやゆがみを目視でチェック
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実は、乾燥したチョークのチェックを担当している方は、
入社当初は、すぐにキレる症状があったそうだ。
キレたら、家に帰すことがルールだが、
家に帰ると、会社に戻りたいと本人が言い始める。
その時に、家族が、会社に戻りたければ、
キレたりしてはいけないことを何度もきちんと説明をする。
それを繰り返すうちに、キレる回数は減り、5年後にはキレなくなり、
10年後には、チョークのチェックだけではなく、
周りの仲間たちが仕事をしやすい環境なるか気配りをし、
気がつけば、整理整頓や機械のメンテナンスをしてくれるようになったそうだ。

周りの人が働きやすいように、
機械回りの整理整頓をする
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働きたいという気持ちが、
障害を改善して行く原動力になっているのだと
大山さんはおっしゃる。

チョークを選んで箱詰め。
1日7時間40分かけて、
9万本近いチョークを箱詰めをするが、
未だかつて、ミスや不良品を出したことは一度もないという
箱詰めのプロフェッショナル。
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遅刻してばかりだったある従業員も、
忙しくなって責任の範囲が増えるようになってから、
始業の1時間前に出社し、
掃除や準備をするようになったとのこと。

なぜ、みんな働きたいと思うのか。

それは、人に喜ばれ、褒められ、
自分が役に立っていることを実感できるからだ。

大山さんは、ことあるごとに、
みんなに「ありがとう」と言う。

そして従業員たちは、
ことあるごとに、報告をする。

<憲法に定められた国民の権利と義務>

単純なことのようだが、
知的障害者として施設に入ると、
ありがとうと言われることは滅多にない。

自分が役に立つという体験をすることもできないし、
自分が成長していくことを体験することもできない。

従業員の何人かは、グループホームから通っているが、
こうして会社で働くことで、ホーム代も自分で支払えるし、
余剰のお金も持つことができ、将来に備えることができる。

グループホームに入り、施設などに通う人は、
ほとんど収入をえることもなく、
自分の死後の子どものことを憂いでいる親は多い。

「障害者施設は生産性が上がるような場所ではない。
 公の負担で存在している。

 しかし、障害者が会社で働くことができれば、
 彼らは生産性を上げることに寄与でき、
 税金も納めることができ、幸せも得られ、
 会社も体質強化ができる。

 日本国憲法には、国民の働く義務と権利が明記されている。
 それなのに、施設は、その義務と権利を放棄させている。
 それは、日本国憲法の福祉主義にも反する。

 中小企業で働くチャンスを知的障害者に与えることは、
 人間の義務と権利のためにも意味があるし、
 物心ともに幸せになれるきっかけでもある」

と大山さんはおっしゃる。

<新たなライフワーク>

そして今、大山さんには新たな試練がやってきた。
それは、チョークの需要の低下だ。

それでも大山さんは
「僕は運が良い」とおっしゃる。

キットパスというガラスにも書ける
新しいチョークの開発が実現したからだ。
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大山さんは、昨年、経営を息子さんに譲った。

「これからは、キットパスを使って、
 子どもたちのために活動をしたい」

と大山さんは言う。

3歳までに刺激を与えると
知的障害と言われた子どものうち15%の子どもが
知的障害ではなくなるという研究成果もあるそうだ。

全国のそんな子どもたちのために、
キットパスを使って絵を自由に書いたりして
智恵を覚ますきっかけ作りをしたいそうだ。

全国で、キットパスを使って子どもたちを支援する活動を
主体的に担ってくれる人がいらしたら、
ぜひ、連絡を欲しい。。。

(おまけ)
大山さんの趣味はだるま集め。
会議室には、沢山のだるまが並んでいる。
だるま集め第一号のだるまは、足のあるだるま(左)。
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